賃貸の敷金とは何に使う?初期費用の相場と退去時の返金について解説

賃貸物件を契約する際に初期費用としてかかる「敷金」は、何を目的として請求されているかご存知でしょうか。

敷金は、お部屋や建物の設備を維持するために使用される預かり金です。本来、退去時に問題がなければ返金されます。

しかし、敷金をめぐったトラブルもたくさん発生しています。

今回は、そんな敷金の役割と費用の相場、退去時の返金、トラブル回避方法をまとめて解説します。

敷金とは

敷金は居室の備品などを破損してしまった場合、原状回復のために使用する預かり金です。関西地方では保証金と言われることもあります。

他にも家賃滞納時に充当するなど、物件の維持に欠かさないお金です。

敷金の特徴

ここでは敷金の主な特徴3つをご紹介します。敷金の特徴は以下の通りです。

  • 物件の原状回復のために使用される
  • 家賃滞納時は敷金を充当する
  • 退去時に返金される

物件の原状回復のために使用される

居室は生活するためにさまざまな設備を設けています。例えば、水道、ガス、電気は生活していく上で欠かせない設備です。

そして、エアコン、給湯器、ユニットバスも居室の設備になります。

これらの設備の不具合に対して、オーナーは敷金を使って原状回復の修繕を行います。

例えば、エアコンや暖房器具などを故意に壊してしまった場合や、換気をせずに壁紙にカビが発生した場合は敷金で修繕します。

家賃滞納時は敷金を充当する

不動産オーナーは月々の家賃によって物件を住みやすい環境にするために管理しています。

そのため、家賃の支払いが滞った場合は、敷金を家賃に充当します。

ですが、入居者から家賃を敷金で相殺して欲しいという申出はできません。あくまでも敷金を使用するのは不動産オーナーの判断です。

退去時に返金される

敷金は、退去時に原状回復がされていれば返金されます。

退去時に原状回復のための清掃代やハウスクリーニング代が必要な場合は、その分の金額が差し引かれ、残りの金額が返金されます。

民法622条の2第1項によって、貸主は敷金を返金する義務があります。

しかし、退去時に現状回復されているにも関わらず、敷金が返金されないというトラブルもあります。

後ほど詳しく説明しますが、トラブルに遭わないために国土交通省で「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が定められています。

敷金の返金がない場合は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を基に、貸主側に説明を求めて、費用負担について話し合いましょう。

敷金と礼金の違い

礼金は、貸主に対して「お礼」の気持ちを込めて支払うお金です。敷金と違い、退去時の返金がありません。

礼金の習わしは賃貸住宅がない時代に地方から来た入居者の親が大家さんに謝礼として渡していたといわれています。

今でも慣習として残っていますが、賃貸住宅が多い現在は礼金を請求する物件が少なくなりました。

中には敷金なしで礼金が必要な物件もあるので、家探しの際に役割だけ知っておくとよいでしょう。

礼金については以下の記事でも詳しく解説しているので、より詳しく知りたい方は合わせて参考にしてください。

賃貸の礼金とは?敷金との違いや初期費用を抑える方法をご紹介

敷金と保証金の違い

関西地方では、賃貸借契約を締結する際に保証金を徴収する慣習があります。

使用目的は敷金と同じ役割で、物件の維持管理や家賃滞納のための担保金として使用されます。

保証金の金額相場は、家賃の3〜6ヵ月分の金額です。ただし、西日本では更新時に更新料を徴収する習慣がないので、長く居住すれば総費用が安くなります。

敷金との違いは退去時の対応です。敷金と同じく、退去時に保証金は返金されますが、物件の原状回復の状態次第での返金となります。

また、敷引きと言われ、保証金の約1ヵ月分を差し引く特約があり、原状回復費用と別に差し引きます。

例えば、家賃5万円で保証金15万円を入居時に支払い、退去時に敷引き5万円、原状回復費用5万円を差し引かれた場合、返金額は5万円となります。

敷引きの特約の物件は減少していますが、物件広告に特約事項として記載されているので注意して確認するようにしましょう。

保証金については以下の記事でも詳しく解説しているので、より詳しく知りたい方は合わせて参考にしてください。

賃貸の保証金とは?敷金との違いや返還される金額・時期を徹底解説

敷金の相場と敷金なしの物件について

敷金の相場は?

敷金の相場は地域や物件によって異なりますが、家賃の1〜2ヵ月分が目安です。

ファミリー物件や戸建ての貸家などの敷金は家賃の3ヵ月分以上で設定している物件もあります。

ペット飼育可能物件では、家賃の0.5〜1ヵ月分が上乗せで設定されています。

特にペットを飼っている方は、契約内容を確認してから契約を締結するようにしましょう。

初期費用をなるべく抑えたい方は、敷金が家賃1ヵ月分くらいの物件で検討するのもよいでしょう。

最近は敷金なしの物件も増えている

最近では敷金がない物件も増えています。

ここ近年の日本の人口減少で賃貸住宅の供給が多く、空室が増えているため、不動産オーナー側も敷金なしで入居者を積極的に募集しています。

さらに、築年数が古い物件だけではなく、新築でも敷金なしの物件があります。

しかし、敷金は預かり金の役割があるため、入居時の敷金がない代わりに保証会社の加入やハウスクリーニング代がかかる物件もあるので注意してください。

総額で考えると敷金より諸費用が多く支払ったというケースもあります。

敷金はお部屋を維持するための費用として使用されるので、敷金がない物件が良いとは一概には言えません。

敷金が返ってこないケースとは

退去時に敷金が返金されると説明しましたが、なかには返金されないケースもあります。

これらのケースは賃貸契約をする前に知っておくことが重要です。

次に敷金が返金されない3つのケースご紹介するので参考にしてください。敷金が返ってこないケースは以下の3つです。

  • 居室の設備などを激しく破損や汚損させて場合
  • 家賃の滞納がある場合
  • 短期退去の場合

居室の設備などを激しく破損や汚損させた場合

居室の設備を破損させてしまった場合は、敷金を使って修繕します。

退去する際は原状回復と言って入居前の状態にしなければなりません。

例えば、壁紙にカビなどの落ちにくい汚れをつけてしまった場合は、敷金から修繕費用が差し引かれて残りが返金されます。

破損の度合いによっては、修繕費用が敷金より多い場合もあり、その場合は残りの修繕費用も弁済しなければならないので注意しましょう。

家賃の滞納がある場合

家賃を滞納している場合は、滞納している家賃分と敷金が相殺されるので返金されません。

不動産オーナーは入居者から徴収している家賃で設備のランニングコストや共用部の清掃費用を支払い、建物を維持しています。

入居者に家賃を滞納されると物件の管理ができなくなるため、家賃の滞納があった場合は敷金から充当して運営費用として使用しています。

退去時に家賃の未納がある場合は、未納分の家賃が差し引かれるので注意しましょう。

短期退去の場合

物件によって短期解約による違約金が発生します。

1年未満もしくは2年未満の退去は、敷金と短期解約違約金が差し引きされ、敷金の返金が半分もしくは0円になります。

短期解約違約金を設定する理由は、オーナー側の立場として長く居住してもらうことで利益になるからです。

入居者に短期間で退去されると利益にならず、空室コストがかかります。

このような場合、必ず賃貸借契約書ならびに重要事項説明書の特約事項に「1年以内に解約した場合は、家賃1ヶ月分の違約金を支払うこと」と記載があります。

短期解約違約金が発生する物件は、年単位で居住するのかも考えてから契約することをオススメします。

敷金の返金トラブル回避になる原状回復ガイドラインとは

原状回復ガイドラインについて

退去時に入居前の状態にすることを原状回復といい、借主は民法上、退去時には原状回復を行う義務があります。

しかし、原状回復の基準が明確でないことから、借主と貸主との認識にズレが生じ、トラブルが発生しています。

国民生活センターの調査によると、敷金返金のトラブルに関しての苦情件数は、以下の表のとおり年々増加傾向にあります。

2019年 2020年 2021年
件数 14,675件 15,313件 16,767件

上記のようなトラブルを回避するため、国土交通省は「原状回復ガイドライン」、そして東京都条例で「賃貸住宅紛争防止条例」を制定しています。

経年劣化による居室の汚れなどは原状回復の義務がないため、ガイドラインでは経年劣化の考え方と賃借人の費用負担の条件など、原状回復の基準が明確にされています。

このガイドラインについて、大切なポイントを解説します。

原状回復の基本的な考え方

原状回復の基本的な考え方は、下記のとおりです。

【貸主側の負担】

  • 経年変化
  • 通常の使用による損耗等復旧

(例)フローリングのワックスがけ、テレビや冷蔵庫等の壁の黒ずみ、壁のピンや画鋲の穴、各所の消毒など

【借主側の負担】

  • 借主の故意・過失や通常の使用方法に反する使用
  • 借主の責任によって生じた損耗やキズ
  • 故障や不具合を放置したり手入れを怠ったことが原因
  • 発生・拡大した損耗やキズ

(例)カーペットに飲み物をこぼしたシミ、結露でできた壁紙のカビ、引っ越し等で生じたキズ、たばこのヤニ、飼育ペットによるキズや汚れ、キッチンの換気扇などの油汚れなど

居室を生活上で通常に使っている損耗に対しての原状回復は貸主側の負担で行います。

そして、借主の不注意による備品の故障や日常の手入れを怠ったためにできた不具合は借主負担になります。

以下の記事では、原状回復のガイドラインについてより詳しく解説しています。詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせて参考にしてください。

賃貸物件の原状回復を徹底解説!費用やトラブルを回避するポイント

敷金の返金トラブルを回避するためには

誰もが退去時に敷金でトラブルを起こしたくないと思います。

なので、次に敷金の返金トラブルを回避する方法をご紹介します。

「入居前」「入居中」「退去前」「退去時」の4つのタイミングに分けて紹介します。賃貸住宅を借りるためにとても重要なので参考にしてください。

入居前に行うこと

物件の入居前には必ず現地で内見を行い、お部屋の状態と契約内容をしっかりと確認しましょう。

現地に行かずに自分の直感で決めたり、オンライン内見で済ませる方もいますが、直接確認して、お部屋の傷などはその時点でオーナーと認識を合わせておくことが重要です。

特に水回りの汚れや居室の中のキズは現地に行かないとわかりません。内見をして少しでも写真と違和感がある場合は決断しないようにしましょう。

できれば、内見に行く際は物件探しに詳しい人と一緒に行くことをオススメします。

そして、借りる物件が決まれば賃貸借契約を締結します。賃貸借契約書には物件を借りるための重要な決まり事が記載されています。

内容に疑問がある場合は、不動産業者に必ず確認するようにしてください。

特に契約書の内容は、入居時のことに目を向けがちですが、退去時に発生する費用も事前に確認する必要があります。

契約した後で契約内容を変更することは難しいので、後で後悔しないためにもしっかりと確認して、少しでも疑問があれば質問しましょう。

入居中に行うこと

居室を大切に扱う

入居中は必ず、居室と設備を大切に扱いましょう。

居室と設備はオーナーの所有物です。入居中に給湯器やエアコンなどを壊してしまった場合は、必ず管理会社や不動産オーナーに連絡してください。

退去時に故障していることが発覚した場合は、敷金から修理費用を弁償することになります。他にも居室に不具合がある場合も必ず、管理会社に連絡しましょう。

居室の掃除や換気はしっかりと行う

賃貸で生活する場合も掃除は必要です。

掃除や換気を怠った原因で落とせない汚れやカビが発生すると、敷金からハウスクリーニング代として差し引かれる可能性があります。

掃除を怠った例として、キッチンの油汚れは手入れをしないと汚れが蓄積して落ちなくなります。他にも換気の習慣がないと、浴室などにカビが発生します。

普段の清掃と換気を心掛けることで居室は激しく汚れることはありません。

敷金返金のトラブルにならないためにも、お部屋をこまめに掃除や換気して、きれいに保つようにしましょう。

退去前に行うこと

賃貸の退去に費用が発生する場合があるため、退去する前に発生する可能性がある費用を確認しましょう。

退去時には原状回復のハウスクリーニング代と短期間での退去の場合は、短期解約違約金が発生します。

敷金の返金がある場合、これらの費用を差し引いた残りの金額を返金することになります。

退去時の申し出と一緒に退去費用について把握することが重要です。

納得がいかない費用を請求された場合は「原状回復ガイドライン」を基に、不動産オーナーもしくは管理会社と納得いくまで話合うようにしましょう。

交渉次第で10万円近く安くなったという事例もあります。納得がいかない場合は、泣き寝入りせずに話し合うことが重要です。

退去時に行うこと

賃貸の退去が決まったら、退去日までに原状回復をしなければなりません。

原状回復費用を請求されないためにも、部屋を出る前に必ず清掃しましょう。

そして、エアコンや給湯器が正常に稼働するかの確認も必要です。

原状回復がどのような状況かわからない場合は、以下の「原状回復ガイドライン」を参考に自己点検してみてください。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について | 国土交通省HP

まとめ

敷金は居室を管理するための大切な預かり金です。原状回復のための修繕費、また家賃滞納時に充当する資金として使用されます。

そして、敷金は原状回復のための修繕が不要な場合は、退去時に返金されます。しかし、原状回復の基準が曖昧なため、返金に関するトラブルが多発しています。

返金トラブルに遭わないように、物件の内見、契約内容の確認、借りている居室を大切に扱うことを居住前に行うことが重要です。

退去時は退去費用の確認と居室の汚れや設備の不具合を確認するようにしてください。

居室に不具合がないにも関わらず、退去費用が高額な場合は、管理会社もしくは不動産オーナーに確認しましょう。

それでも話し合いが上手くいかない場合は、専門家に相談することをオススメします。

YouTube

N203 | Room tour

チャンネル登録

\Follow Me/