賃貸の保証金とは?敷金との違いや返還される金額・時期を徹底解説

日本では、賃貸物件を借りるときに「保証金」という名目でお金を支払うケースがあります。

保証金とは、主に西日本地方にみられる商慣習で、関東地方では耳慣れない言葉です。また、その性質について知らない人も少なくありません。

では、保証金とはどのような性質を持つものなのでしょうか。

今回は、賃貸契約における保証金とは何か、関東地方でよく使われる敷金・礼金との違いや、退去時の返還の有無、金額などについて詳しく解説します。

賃貸契約における保証金とは

賃貸契約の保証金とは、賃貸物件を契約する際に担保や原状回復として貸主が預かるお金です。

借主が家賃を滞納したときや、部屋の設備を壊したり汚してしまったときの修繕費に充てるお金です。いわゆる担保金という扱いで初期費用の一部になります。

もともとは、関西地方や中国地方、九州など、西日本の一部地域で採用されている商習慣で、相場は家賃の3〜6ヶ月分と言われています。

関東の敷金と使用用途はほぼ同じですが、細かい違いがあり、完全に同じものとは言い切れません。

そこで、まずは敷金と礼金の意味を理解しておきましょう。

賃貸における敷金・礼金とは?

賃貸契約における敷金と礼金について解説します。

敷金(貸主に担保として預けるお金)

敷金とは契約時に預けるお金で、保険のような役割を担っています。

退去時に必要となる原状回復のためのハウスクリーニング代や修繕費、また、家賃滞納があった場合の担保として預けます。

退去時には、原状回復にかかった費用を差し引いた金額が返還されますが、敷金を全額出しても費用が足りない場合は、追加請求をされる場合もあるので注意しましょう。

また、原状回復の必要がない場合は全額返還されることもありますが、どれだけ部屋がキレイでもハウスクリーニング代を差し引くというケースもあります。

そのため、契約時にしっかりと確認することが重要です。なお、相場は家賃の1〜2ヶ月分です。

以下の記事では、敷金についてより詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

賃貸の敷金とは何に使う?初期費用の相場と退去時の返金について解説

礼金(貸主にお礼として支払うお金)

礼金とは、契約時に貸主に対してお礼として支払うお金です。

礼金は、あくまでも「お礼」として渡すお金なので、退去時に返還されることはなく、ハウスクリーニング代や原状回復費用に充てることもできません。

礼金は、主に関東で敷金とセットで渡すことが一般的で、相場は家賃1〜2ヶ月分です。

また、なかには礼金がない場合があり、その代わりに同じような意味合いの「敷引き」という制度も存在します。

西日本では、契約時に敷金・礼金の代わりに保証金として家賃数ヶ月分を支払うケースがあります。

この保証金から、退去時に謝礼などの名目として差し引かれ、返還されないのが敷引きです。詳しくは後述します。

以下の記事では、礼金についてより詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

賃貸の礼金とは?敷金との違いや初期費用を抑える方法をご紹介!

賃貸の保証金と敷金・礼金の違い

敷金・礼金について分かったところで、次は保証金との違いを解説します。

賃貸の保証金と敷金・礼金の違いは、主に下記の2つです。

  • 料金相場が金額差が大きい
  • 返還の有無は退去時の部屋次第

料金相場は金額差が大きい

賃貸の保証金、敷金・礼金の相場は以下の通りです。

保証金 家賃の3〜6ヶ月分
敷金 家賃の1〜2ヶ月分
礼金 家賃の1〜2ヶ月分

主に関東で一般的な敷金は、礼金と一緒に支払う仕組みになっています。

そのため、保証金の相場の家賃3〜6ヶ月分という金額は、多くても家賃4ヶ月分程度の敷金・礼金の金額と比べて高い傾向にあります。

ただし、西日本では更新時に更新料を徴収する習慣がありません。

また、礼金は保証金に含まれているので、長く住むほど総費用を抑えることができます。

返還の有無は退去時の部屋次第

保証金や敷金の返還の有無は、退去時の部屋の状況により異なります。

敷金の場合は、借主の家賃滞納や、故意や過失による損耗がなければ、基本的にはそのまま返還されます。

一方で保証金の場合は、部屋の使い方に関わらず、契約時の敷引き額が差し引かれ、残りが返還されます。

ただし、原状回復費用が敷引きの金額より上回った場合、差額を残りの保証金からさらに差し引かれ、ほとんど戻ってこないこともあります。

加えて、原状回復費用が保証金を上回った場合は、追加請求されることもあるので注意しましょう。 

保証金の返還される金額について

次は、保証金の返還される金額と敷引きについて説明します。

保証金として貸主に預けた金額は退去時に返還されますが、様々な金額が差し引かれます。

まずは、その中の「敷引き」について解説します。

敷引きとは

敷引きは、保証金とセットになっている特約で、預けた保証金から一定金額を無条件で返却しないというお金です。

名目は謝礼や原状回復費用のため、退去時に返還されることはなく、たとえ原状回復費用が0円だったとしても返還されません。

つまり、使用する用途は異なるものの、戻ってこない初期費用という点では、礼金とほぼ同じと考えて良いでしょう。

なお、敷引きの相場は、保証金の5〜6割程度といわれています。

また「家賃の何ヶ月分」や「家賃にかかわらず何万円」というように具体的な金額を設定されているケースもあります。

敷引きの設定金額により、退去時に返還される金額が大きく変わります。そのため、契約時にきちんと確認することが大切です。

保証金の返還される金額

保証金は、原状回復費用や未納の家賃に充てられます。

そして、それらの費用を差し引いた保証金が退去時に返還されます。

ただし、保証金には先ほど紹介した「敷引き」という特約がついている場合が多く、敷引きとして取り決められた一定額は、返還されないことを理解しておきましょう。

また、家賃の滞納があった場合は、保証金より賃料を差し引いた額が返還されます。

つまり、借りた部屋に借主の故意や過失による破損・汚損がなく、未納の家賃がなければ基本的には返還されます。

借主の原状回復義務とは

では、保証金から差し引かれる原状回復費用の負担は、どういった場合に必要なのか気になると思います。

特に原状回復については、解釈の違いによるトラブルの発生が少なくありません。

なので、次は原状回復について詳しく解説します。

借主には、賃貸物件の退去時に部屋を借りた時と同じ状態に戻す義務「原状回復義務」があります。

その範囲は、2020年4月1日に施行された改正民法にて、以下の通り明記されています。

"賃借人は賃借物を受け取った後に生じた損傷について、原状回復義務を負うが、通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わない"

つまり、借主が原状回復義務を負う範囲は、借りた部屋に故意や不注意、または過失による破損や汚損がある部分ということです。

では、原状回復義務を負う範囲と通常損耗や経年変化(原状回復義務の対象外)の具体例を紹介します。

原状回復義務の対象(借主負担)

原状回復の具体的な対象範囲は以下の通りです。

  • カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミやカビ
  • 冷蔵庫下のサビ跡
  • 引越し作業・模様替え等で生じたひっかきキズ
  • 雨水が吹き込んだなどの不注意による畳やフローリングの色落ちや腐食
  • 落書き等の故意による汚損
  • タバコ等のヤニや臭い
  • 壁等のくぎ穴・ネジ穴
  • ペットによる柱のキズや臭い

借主の不注意などによる、通常の生活ではできにくい破損や汚損に対しては原状回復義務の対象となります。

一方、原状回復義務の対象外である通常損耗や経年変化とはどのような場合なのでしょうか。

原状回復義務の対象外(貸主負担)

原状回復義務の対象外である通常損耗や経年変化の具体的な対象範囲は以下の通りです。

  • 日照などの自然現象によるクロスや畳の変色
  • 家具の設置による床やカーペットの凹み
  • テレビや冷蔵庫等の後部壁面に発生した黒ずみ(電気やけ)
  • 借主所有のエアコン設置による壁のビス穴や跡
  • 壁に貼ったポスターや絵画の跡(下地ボードの張替えが不要な程度)

普通に生活しただけで生じる傷や汚れの通常損耗や、入居の有無に関わらず生じる劣化の経年変化によるものは、借主に原状回復の義務はないということです。

保証金の返還時期

保証金の返還時期については、原状回復義務と同様に2020年4月1日に施行された改正民法に、以下のように明記されています。

"賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき"

つまり、保証金の返還は、賃貸物件の契約が終了し、物件の明渡しが完了した時点ということです。

保証金は、退去時に返還されると思われがちですが、あくまでも物件の明渡しが完了していることが前提です。

また、返還期限は一般的に退去から1〜2ヶ月以内が適当となっています。

万が一、契約書に返還期限の記載がない場合は、退去から2ヶ月以内に返還されることを目安にしておくと良いでしょう。

保証金の返還額を減らさない2つの方法

保証金の返還される金額や時期、期限がわかったところで、せっかく保証金が返還されるのであれば、その金額はできるだけ多くしたいところです。

そこで次に、保証金の返還される金額を減らさないための方法を2つご紹介します。

賃貸契約における保証金の返還額を減らさないための方法は、主に以下の2つです。

  • 敷引きの減額交渉
  • 原状回復費用を抑える

一つずつ解説していきます。

敷引きの減額交渉

敷引きの金額が家賃の3.5か月分以上の場合は、減額交渉をしてみましょう。

その根拠として、敷引き特約の有効性について争われた判例(平成23年の最高裁判例)があります。以下の判例を確認してください。

※こちらの裁判では、借主の主張は認められませんでした。

消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は、賃貸借契約締結から明渡しまでの経過期間に応じて18万円ないし34万円のいわゆる敷引金を保証金から控除するというもので、上記敷引金の額が賃料月額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていること、賃借人が、上記賃貸借契約が更新される場合に1ヶ月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等の一時金を支払う義務を負っていないことなど判示の事実関係の下では、上記敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、消費者契約法10条により無効であるということはできない。

引用元:裁判所 - Courts in Japan

この判例のポイントは2つです。

  • 敷引きは賃料の3.5倍(3.5ヶ月分)にとどまっていること
  • 更新料以外の礼金等の一時金の支払い義務が一切なかったこと

つまり、敷引きと礼金等の一時金の合計が家賃の3.5ヶ月分以上だと、高額とみなされるということです。

敷引きの上限金額については法律で定められている訳ではありませんが、この最高裁判例を基準値に考えると、家賃3.5ヶ月分以上の場合は減額交渉可能だと言えるでしょう。

まずは、一度交渉してみてください。

原状回復費用を抑える

一番確実なのは、原状回復費用を抑えることです。

保証金の返還される金額は、敷引きと原状回復費用を差し引いた残りの金額です。

敷引きの名目は原状回復費用のため、敷引きの金額を上回る原状回復が必要な場合は、差額を残りの保証金から差し引かれてしまいます。

だからこそ、部屋の使用状況を良くし、原状回復費用を敷引きだけにとどまらせることが重要です。

たとえば、フローリングの日焼けのように、どのように使用しても避けられないような経年変化は、故意や過失ではないので貸主負担になります。

ですが、それ以外の故意や不注意による破損や汚損、掃除を怠ったことによる過度な汚れなどは、借主負担になるので使い方には注意してください。

【最後に】保証金と敷金は似て非なるもの

本記事では、賃貸の保証金について解説してきました。

保証金についてまとめると、以下の通りです。

  • 保証金とは貸主に担保として預ける一時金
  • 保証金には敷引き特約がついているケースが多い
  • 保証金の返還される金額は敷引き額や原状回復費用によって異なる
  • 保証金の返還時期は物件明渡し完了時
  • 保証金の返還期限は退去後から2ヶ月以内が目安

なお、入居時に貸主に預けるお金という意味では、保証金も敷金も同じです。

ですが、原状回復が不要の場合は全額返還される敷金と、無条件で返還されない敷引きがセットの保証金とでは、その性質は異なります。

そのため、保証金と敷引きの性質をしっかりと把握した上で、賃貸契約を結ぶ際には必ず確認するようにしてください。

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